井伏鱒二(右)と飯田龍太氏
(1963年4月16日へ栃代川)
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釣り好きの人は、次の休みは何を釣ろう、どこへ行こう、と考えるのが楽しくてたまらないと言います。道具の準備をしながらあれこれ思う気持ちは大人でも子供でも同じです。
甲州(こうしゅう)に格別に縁(えん)の深い作家・井伏鱒二(いぶせますじ)は大の釣り好きでした。
県立文学館には、井伏が使っていた「釣竿」と「びく」が所蔵されています。井伏が釣りを始めたきっかけは、当時報知新聞の記者であった佐藤垢石(さとうこうせき)に鮎(あゆ)の友釣りを教わったことです。友釣りというのは、囮(おとり)の鮎を野生の鮎のなわばりに泳がせて、掛け針に掛かった鮎を釣る方法です。「友アユあります」という看板があれば囮の鮎を買うことができます。
釣りに関する文章を集めた『川釣り(かわづり)』・『釣人(つりびと)』には、富士川の十島(とうしま)で井伏が垢石から釣りの仕方をこと細かく教わっている様子が書かれています。
釣竿の持ち方から「てぐす(糸のこと)」の結び方、川に向かう姿勢や足の運び方といったすべてを教わっているのです。以下は垢石のせりふです。
「おい井伏や。鼻鐶(はなかん)は、こうやって、囮の鼻に通してやる。手柔らかに、すっと鼻の穴に通す。(中略)無理やり捩込(ねじこ)むてえと、囮のやつ、鼻血を出して、やっこさん脳しんとうを起しちまう。まアるで駄目だ」
「おい、リュックサックに石を入れること。お前、知らねえか。(中略)水に流されねえように自分の身体に重みをつける。・・(略)・・」
このように垢石は、実際にお手本を示しながら教授してくれたのでした。井伏は以後、増富温泉(ますとみ)・笛吹川・下部温泉・御坂の谷川・境川などを訪れては、釣りに明け暮れるのです。

井伏鱒二が愛用していた釣りざおとびく |
井伏は、俳人・飯田龍太(いいだりゅうた)氏とも釣り仲間でした。県立文学館所蔵の「飯田龍太の釣」という原稿には、龍太氏と下部川で会い、13匹もの大型のヤマメを見せてもらったことや、栃代川へいっしょに行ったときは二人とも釣れなかったことなどがありのままに書かれています。
また、場所選びがうまくて勘の鋭い龍太氏の腕前(うでまえ)を、「さっぱり駄目(だめ)だといわれた年でさえ一日に15匹釣った」と書いています。
このほかにも井伏には釣人とのふれあいがおもしろくあたたかく書かれた作品がありますので読んでみてください。
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