蛇笏の使った印章

 はんこは、「印」といったり「印章」ともいいます。銀行や郵便局でお金をおろすときや、家に届いた荷物を受け取るとき、書類の最後など、印というところに押します。家のはんこは、名字が漢字で刻まれているものが多いでしょう。
写真は、山梨県の俳人・飯田蛇笏の使った印章の数々です。形は丸や四角のほかおもしろいものがあり、材料も石や竹などさまざまです。文字は、蛇笏・飯田蛇笏・山廬(さんろ)・山廬蛇笏などが、それぞれデザインされて刻まれています。「山廬」とは「山の中の住まい」という意味で、蛇笏自身が自分の家に名付けた名前です。蛇笏は色紙やかけ軸などに自分の詠んだ俳句を筆でいくつも書き残しました。作品の終わりには蛇笏や山廬という名前を書き記し、印を押しました。このように、作品に姓名、字号、年月などを書き記し、印章をおすことを「落款(らっかん)」といい、鎌倉時代以降盛んに行われたのです。

 蛇笏は明治18年、山梨県東八代郡(現在の境川村)に生まれました。5・7・5の17文字に季節を表す言葉(季語)をよみこむ短い詩─俳句─を詠んだ人です。大正時代から亡くなる昭和37年まで故郷の境川村で生活しながら、すぐれた作品をよみつづけました。俳句雑誌「雲母(うんも)」や、『山廬集』『霊芝(れいし)』『山響集』など数々の句集からは、彼の活躍の様子が手に取るようにわかります。

 山梨県立文学館の常設展には、飯田蛇笏のコーナーがあります。自筆の書と印章の調和した代表作「鐵(くろがね)のあきの風鈴鳴りにけり」や「いもの露連山影を正しうす」を書いた掛け軸には、先ほどの印がおされています。また、愛用の硯(すずり)や筆も展示してあります。蛇笏がよく使っていた印章をさがしてみたり、硯の大きさを自分のものと比べてみるなど、興味を持って見ると展示はさらにおもしろくなることでしょう。