『南総里見八犬伝』は江戸時代の後期、19世紀の前半に、江戸の戯作者曲亭馬琴が、足かけ29年の歳月をかけて完成させた全98巻106冊に及ぶ長大な作品です。室町時代の安房地方に実在した里見氏の歴史を背景に、「八犬士」をはじめとする善悪様々な人物が次々に登場し、関東一円から越後、甲斐、京にまで舞台を拡げて活躍します。刊行中から評判を呼び、錦絵や歌舞伎に取り入れられ、ダイジェスト版やパロディ本もあらわれました。明治以降、現代に至る今日までも小説や映画、コミック、ゲームなど幅広いジャンルを刺激して新たな作品を生み出しています。
本展では、 『南総里見八犬伝』の原本展示のほか、当時ブームとなったことがわかる多種多様な関連資料約150点を一堂に展示します。「八犬伝」ファンの方はもちろんのこと、初心者の方にも分かりやすいよう、あらすじや関係地図、人物相関図をパネルで紹介するほか、未読の方でも視覚的に楽しめる資料も用意しています。時代とジャンルを超えて愛されるベストセラー「八犬伝」の魅力をご堪能ください。
作家の中には、自ら好んで絵を描いたり、自著の装幀を依頼した画家にこまやかな指示をしたりするなど、美術に深くこころを寄せた人たちがいます。夏目漱石や芥川龍之介は、絵を描くことを楽しみ、著書の装幀にも自身の美意識を反映させました。また、俳誌「雲母」では多くの画家たちが表紙や誌面を彩ると共に、みずから句作に取り組む者もいて、美術と文学の交流の様子がみられます。
文学者の書画、装幀・挿絵の原画、作家と画家の交流を表す書簡などにより、文学と美術が織りなす豊かなコラボレーションの世界を紹介します。
作家・辻邦生(1925~1999)は、小説の舞台となる場所を自らの足で訪れ、その時代の膨大な歴史資料を読み込み、小説の執筆にあたりました。作者自身も時空を超えて旅をしながら、小説に古今東西の世界を再現しました。古代ローマを舞台にした「背教者ユリアヌス」、ルネサンス期フィレンツェのボッティチェルリを描いた「春の戴冠 」、山梨県笛吹市春日居町国府の父祖の地を探求した「銀杏散りやまず」、平安末期の歌人・西行をゆかりの人の多彩な声で語る「西行花伝」などの代表作とともに、その生涯をたどります。
常設展では、季節ごとの展示替えの際、特設のテーマ展示のコーナーを設けています。 令和7年度夏のテーマ展示では、甲府に疎開した井伏鱒二と太宰治を紹介します。
井伏鱒二は、1944(昭和19)年に甲運村(現・甲府市和戸町)の岩月家に、家族とともに疎開しました。翌年4月、太宰治は甲府の妻の実家に家族で疎開し、たびたび井伏の滞在する岩月家を訪れ、山梨の文学者と交流を持ちました。7月6日の甲府空襲の後、井伏は広島、太宰は青森の、それぞれの故郷へと再疎開し、終戦を迎えました。再疎開先から出された手紙や、岩月家旧蔵の井伏鱒二の書、太宰治の原稿などを展示します。
常設展では、季節ごとの展示替えの際、特設のテーマ展示のコーナーを設けています。
令和7年度秋のテーマ展示では、山中湖畔に疎開した詩人の金子光晴を紹介します。
1944(昭和19)年、金子光晴は東京吉祥寺の住まいを離れ、南都留郡山中湖村平野に妻三千代、息子乾(けん)とともに疎開しました。戦時中にあって、湖畔の地で発表できないまま反戦の思いを詩につづりました。第二次世界大戦中に書きためた反戦詩は、戦後刊行した詩集『落下傘』、『蛾』、『鬼の児の唄』などに収録されています。また、息子を戦地に送ることを忌避するため、松葉でいぶしたり、雨の中裸で立たせたりして医師に気管支喘息の診断書をもらい召集を免れました。今回は戦時中の詩作をまとめた詩集、山中湖畔で創作した詩が書かれた原稿などを展示します。
令和7年春は、生誕140年を迎える俳人の飯田蛇笏を取り上げます。
第4室「飯田蛇笏・飯田龍太記念室」の資料とあわせて、蛇笏の生涯を知り、その俳句の世界に親しんでいただけるよう、選りすぐりの資料を展示します。